「本人確認」
最近よく聞く言葉です。
資金洗浄防止やテロ資金対策、あるいは詐欺事件防止のために金融機関のみならず宅建業者も目の前の人間が本人かどうか確認しなければなりません。
先日、ある賃貸借契約の更新のお仕事がありました。
木造のアパートにもう30年近く入居されている独居老人です。
温厚で遠慮がちでとてもいい人なのです。
みんな仏様のような人だなぁ・・などと言います。
その方が事務所に来られて手続きをしていると、
突然
「大変申し訳ないことをしたのですが、私は今まで○島○男と名乗ってきましたが、実は △田△作という名前なのです。長年騙してきてごめんなさい。」 ですと…
えっ?
ェ~~~~~えぇぇ!
30年前と言えば、今ほど本人確認は厳しくありませんでした。
それでも契約の際は印鑑証明と実印・住民票を提出してもらって確認しています。
じゃあ、あれは何だったの?
誰のもの?
九州からこちらに来られたのですが、事情があって住民票を移せずに知人の住民票などを借りて京都に住み、そのまま30年がたったそうです。
でも故郷の九州にはもう自分を探す人がみんな亡くなったことを知り、元の名前に戻ろうと思ったそうです。
家主さんに相談したところ.、そのおじさんのお人柄もあって名義の訂正を快諾いただきました。
それにしても、九州でどんなドラマがあったんでしょうね。
詳しくは聞けませんでした。
もしかしたら大変な過ちをおかされたのかもしれません。
だからこそ、それを悔いて悟りきった仏様のような人になられたのではないか・・・
そんなことを思いつつ、契約書の名義に二重線を引いて正しいお名前に訂正しました。
やっと本当の自分に戻れたおじさんは、はにかんだような、でも少し嬉しそうなお顔で私にひとつお辞儀されて帰っていかれました。